宮2を夢見て~シンとチェギョンの物語~
韓国ドラマ「宮」に魅せられて未だ「宮2」をあきらめられず、あれこれ妄想しています。
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進め! 32
チェ・ジノの友人は、中国商社と取引のある会社を経営している。
小規模な会社ではあるが、安定した利益を上げ
大きな問題さえなければ、このまま息子の代まで大丈夫そうだ。

というのも、彼は中国語が堪能な上に中国には知り合いも多く
通訳などを介さずに直接話ができるという利点があったからだ。

そんな知り合いの中に、脱北者専門のブローカーも含まれていた。
ジノが記者という事もあり、友人は会えば興味深い話を聞かせてくれる。
なので、今回もソ・ユニの事を「ひとつ、頼むわ。」と軽い感じで調べてもらった。

しばらくして連絡をくれた友人といつものバーで落ち合う。

友人は大して面白くも無い仕事の話ばかりして
肝心のユニの件については忘れたかのようだ。

「頼んだ件だが、よくわからなかったのか?」

ジノは気楽に聞いた。
友人は首を何度も横に振る。

「いや、そうじゃない。
こんなバーで話すような内容じゃないんだ。
お前んちで飲み直そう。」

「・・・ああ。」

嫌な予感がした。
訳ありだとは思っていたが、彼の様子からするとあまりいい話ではなさそうだ。


タクシーの中でもだんまりを決め込む友人に
ジノは話しかけるのを辞めた。



「ビールでいいか?」

「ああ。」

冷蔵庫からビールとキムチを取り出し、汚いテーブルに置く。

シュッポ。

友人はビールをごくごくと音を立てて飲んだ。

「どこからのリークだ?」

「ん? 何が?」

「とぼけないでくれ。 真面目に聞いてる。」

友人の真剣な目を見てジノはびっくりした。

「そんなにヤバイのか?」

「ああ、ソ・ユニは公安の監視下にある。」

「・・・やっぱりな。」

「そう思ってたのか?
お前も人が悪いな。
わかってて調べさせるなんて。」

「いや、確信があった訳じゃない。
ユニが医師として優れた人材にもかかわらず、
ひっそりと隠れるように暮らしている様子から感じただけだ。」

「だからー、どうしてそれを知ったんだ?」

いくら友人でも、皇后様との関連を知られてはならない。
第一、ジノと宮の関係はジミンしか知らない事だ。
ジノは必死で言い訳を考える。

「うちの記者が施設の取材をした時に、ソ・ユニの存在を知った。
隠し通せない存在感が記者魂を揺さぶったというのか・・・
まっ、そんなところだ。」

「この件からはすぐに手を引いた方がいい。
今の情勢から考えると、深入りしない方が賢明だ。」

「・・・そうか。」

とは言ったものの、ジノの心はかなり深入りしてしまっている。


「記事にしないと約束するなら話す。
が、そうでない場合は一切口を開かないからな。」

そうこられると、ジノは言わざるを得ない。

「記事にはしない。
だけど、すごく興味があるから話してくれないか?」

「絶対だな?」

尚も念を押す友人にジノはうんうんとうなづく。
友人はギロリとジノを睨むと話始めた。



ソ・ユニの一家は、代々医者の家系だった。
ユニの父親は北朝鮮で最高峰の病院に勤務するようになり
ユニ達の代になると、より優秀な人材を輩出していた。
ユニには2人の兄がいる。
一番上の兄は実際の診療より、治験などを行う研究室に身を置いていた。
二番目の兄は脳外科の新鋭として名前を馳せ、
最初は父親と一緒の病院勤務だった。
2人ともだったというのは、今は違うという事だ。

北朝鮮ではそれぞれの分野で優秀な人材が、
政府の関連施設に集められる。
様々なエキスパート達は国の中枢に置かれるのだ。
ユニの兄達も優れた才能と腕がゆえに、一般の人達を救うのではなく
政府関係者のための医師として存在する事を強いられたのだ。
そして一度そこに身を置いた者達は、二度と一般の場所には戻れない。
内部を知り過ぎてしまうからだ。

彼らが今そこでどんな生活をしているのか、知るすべは無い。
たとえ家族であったとしても、知ることはできない。

そこまで話を聞いて、ジノはその先が読めてきた。

「ユニもそこへ行かされる事になっていたのか?」

「そのようだ。」

友人はうなづく。

「だから父親は危険を冒してまで、ユニを脱北させたんだな。
じゃあ、父親や家族は?」

「2人の兄達は何とか無事だろうが、両親はどうだろうな・・・
中国側も関わりたくないから調べもしない。
東南アジアを渡り歩く間もユニは何度も危ない目に合ってきたようだ。
北朝鮮の工作員は各国にいるからな。
父親が持たせた多額の金と自らの叡智で切り抜け
何とか韓国に辿り着き、保護を求めた。
韓国側も厄介な人物が現れた訳で、処置に困ったのだろう。
とにかくひっそりと暮らせというしかなかった。」

「そんな事はすぐにバレているはずだ。」

「だから、民間ではなく公営のあの施設に置いたんだ。
工作員がユニに接近しにくいように。
韓国政府の監視下にあるユニに、ヘタに手を出したら大ごとになる。
あの施設の周りには時々工作員が出没しているようだけど
今のところ目立った動きはない。」

「そこまで調べてくれたのか。」

「乗りかかった船だ、調べたさ。
だが、俺はもうここで降りる。
お前も一緒に降りるんだぞ。」

友人はジノにビールのコップを持たせ、チンと乾杯させる。

その味は、今まで飲んだどのビールよりも苦くて不味かった。






進め! 31
「ふうん・・・まだわからないのね。」

「ええ、そうですの。
一般人を調べるのって大変なのですよ。
この頃は個人情報の管理が厳しいので。」

チェギョンの催促電話に、つい出てしまったジミン。
大した言い訳も考えていなかったし、動揺を隠すのに精一杯だ。

「ジミンは記者さんなのでしょ?
そんなの朝飯前かと思ってたわ。
宮の情報システム部の誰かに調べさせようかしら。」

ジミンはギクッとした。
そんな事をして、宮が関わったという痕跡を残すのは無謀だ。

      どうしよう・・・

ジミンは焦る。
その時、ふと名案を思いついた。

「皇后様、この件に関してはしばらく関わらない方かよろしいかと。」

「どーして?」

チェギョンののんきな声に、ジミンは少し腹が立つ。

「施設の責任者が何だか怪しいのです。
私が彼女に近づくと必死で阻止しようとするし、
もしかしたら彼女は裏帳簿でも任されているのでないかと。」

「えっー、それは大変な事じゃない!」

「なので、今私が必死で調べておりますから
宮は動かないでいて下さい。
ややこしい案件かもしれませんから。」

「そうね、その方がいいわね。
でも、あの責任者さんはいい人なんだけどな~。
それに彼女はそんな事に手を染めるような人じゃないわ。
とっても慈愛に満ちた目をしているもの。」

「なかなかの切れ者とお見受けしました。」

「やっぱりそう思う?
見るからに賢そうだし、子供が大好きな人よ、きっと。」

     本当にこの人は鼻が利く。
     前世は警察犬だったんじゃなかろうか。

ジミンは少々呆れた。
公務に行って、何を見て何を拾ってくるのか。
この人と一緒に暮らしているシンに対して
素直に尊敬の念を抱いたジミンだった。

「じゃあ、しっかり調べて報告してね。」

「はい、わかりました。」

電話を切ってから、ジミンはゴチる。

     私だって他にもいっぱい仕事があるのよっ!
     全く、何だって言うの!!

     まあ、しかし・・・
     あの単細胞さんが素直に信じてくれてよかった。
     危ないところだったわ、宮の誰かが動いたらマズイもの。
     これは宮が絶対に関わってはいけない案件。
     ああ、この先が思いやられるわ。

どっと疲れたけれど、自分の本来の仕事が待っている。
ハイヒールに上手く体重を乗せて、ジミンは歩き出した。




友人との長い電話を終えて、チェ・ジノは煙草に火をつけた。
禁煙してからも、大変な案件を抱えるとやはり手が伸びる。
だから皆には今も喫煙者だと認識されていた。

紫の煙は細長く空間を漂い、消えていく。
ジノはしばらく何も考えず、煙の行方を追った。

最後の煙を吸い込んで、天井に向けて吐く。

     さて、どうしたものか。

今の世界情勢を考えたら、このまま蓋をして何もなかった事にすべきだ。
記者じゃなくても、子供だってわかる事だ。

だけど・・・記事にしたい。
それは記者の本能だから仕方がない。

     それより先に、皇后様に何て話す?

ジノはそれに気が付いて、頭を抱えた。



ソ・ユニと父親は、北朝鮮から中国に派遣された医師であるのは
ジミンが調べた通りだった。
ジノの友人に尚も詳しく調べてもらうと、
手術が必要だったのは北朝鮮大使館の関係者だったらしい。
胸部外科の権威である父と共に、小児外科医であるユニが同行したのは
ただ腕がいいからか、それとも患者が子供だったかはわからない。

術後の経過を見届けて、父娘が北朝鮮に戻る時
父親から「娘をこのまま中国に置いてもらえないか」という打診があったようだ。
だが、中国側としたら 北朝鮮への配慮もある。
彼らは一般人とは違う。
北朝鮮が派遣してきた医師なのだ。
二つ返事で許可するわけにはいかない。

尚も執拗に頼みこむ父親は、患者の容体が思わしくないという虚偽の報告をして
帰国を数日引き延ばした。
正式なルートでは無理だと悟った父親は、
ブローカーに多額のお金を掴ませ娘を託す。
そしてソ・ユニは東南アジア数国を経て、韓国に辿り着いたというわけだった。

父親は一人で北朝鮮に戻って行った。
その後、彼がどうしているかはわからない。
中国側も気まずい思いをしているから、触れずにいるようだ。

父親が命がけで逃がした娘、ユニ。
彼女が韓国で医師の資格を取らない理由。
続けて、友人が語った話にジノは身震いをした。






進め! 30
聡明さは、必ずしも幸せをもたらすとは限らない。

皇后様のそのするどい嗅覚が嗅ぎあてた女性。

彼女の名前は、ソ・ユニ。
優秀な小児外科医だった。
手術が困難だとされる数々の症例を
細い腕一本で治し、医療の歴史を塗り替えてきた。
が、世界のどこを探しても その素晴らしい症例の記録は見当たらない。

彼女が塗り替えてきた歴史は、ごく小さな国に留まっていたからだ。


ジミンが話す言葉を、聞き漏らすまいと
ジノは目を閉じたままじっと聞き入った。


ソ・ユニは脱北者だった。

北朝鮮では有名な小児外科医であった彼女は
ある日、胸部外科の権威である父と共に中国入りをしている。
おそらく、中国側からの要請で 北朝鮮は優秀な外科医を派遣したと思われる。
そして中国での医療行為が完了した後、
父親は北朝鮮に戻り、なぜか彼女のみ韓国に渡った。

その辺りの事情は、取材ではわからずじまいだったようだ。


脱北者は韓国に入るとまず、HANAWONという場所で社会適応教育を受ける。
元医師であっても韓国では認められず、すぐに医療行為は行えない。
再び医師として働きたい場合は、韓国の国家試験に通らねばならない。
彼女は北朝鮮の最高峰の医療技術を備えているのだから
勉強をして受験をすれば、おそらく簡単に合格するだろう。

だが、彼女は一切そういう行動を起こしていない。

脱北者達の就職事情は、はっきり言ってよくなかった。
差別や偏見から、正規の仕事にはなかなか就けない状況だ。

軍事境界線を命がけで逃げて来る人は、実際そんなに多くはなく
8割は中国経由でタイやモンゴル、ベトナムを経て韓国に入国する。
支援団体やブローカーの手助けによって脱北を図る者たちは
北朝鮮では中級以上の生活をしてきた人達だ。
こつこつと貯めたお金をはたいて、夢と希望に溢れ脱北する。
充分な教育を受け、資格を身に付けた人も多い中、
それが生かせず、せっかくやって来た韓国で貧困生活を送る羽目になる。

南北統一、同一民族といった言葉の裏に存在する現実。
韓国の闇の部分だ。

ソ・ユニは自分のスキルを人一倍生かせる状況にありながら
なぜそうしないのか?
ジノは真っ先にそこに疑問を感じた。
そして、北朝鮮に戻った父と韓国に亡命した娘。
そこに強い違和感が残る。


「ジミン。
この案件はこの先、俺が受け持つ。
君はもう関わるな。」

「せっかくここまで調べたのです。
もう少し詳しく知りたいです。」

それは当然の欲求だ。
だが、ジノは直観で危険を感じとる。

「たった1週間でこれだけの事をよく調べ上げたな。」

ジノに褒められたジミンは少しはにかんだ。

「だが、もうこれ以上彼女の周りをやたら嗅ぎまわるのはよくない。
何か裏がありそうな気がするんだ。
ましてや、この案件の発端は皇后様からの指示だ。
慎重に調べた方がいい。
中国に太いパイプを持つ友人がいる。
彼に詳細を調べてもらうから、しばらくは動くな。いいな?」

「・・・はい。
皇后様にはどのように報告すればいいのですか?」

「詳細が分かるまでは、何も伝えない方がいい。
下手すると、ソ・ユニさんと接触を持とうとするかもしれん。」

「有り得ますわね、あのお方なら。
陛下もご苦労なさいますわ。」

「ああ、もし連絡があっても まだ調べている最中だと誤魔化すんだ。」

「わかりました、そうします。」


喫茶店のテレビは、ちょうど皇帝陛下の公務を映し出している。

いつものように爽やかな笑顔で、品よく手をふる姿。


「ああ、のんきに手を振って・・・
また、お姫様が暴走しそうだってのに。」

ジノは画面を見ながらつぶやく。

「でも、何で私達がこんなに苦労しているんですの?
なんか、変。」

「いいか、ジミン。 忘れるな。
俺達は彼らに申し訳ない事をした。
だから、その償いをしなくてはいけない。
どんな小さな綻びも見つけて、宮を守るんだ。
彼らがああやって皆に幸せを届けられるように。」

ジノはテレビのシンに視線を移して言った。

「わかってますわ。
でもあのじゃじゃ馬さん、結構失礼なんですのよ。」

「ははは・・・
元気になって下さって、何よりじゃないか。
君が一番心配してたくせに。」

「そうでもないですわ。
しばらく静かで平和でしたもの。」

「ふふん、そういう事にしておくか。」


シンをぼんやり眺めている小生意気なジミンの横顔。

     やっとフッ切れたな。

ジノはその様子を微笑んで見ていた。





進め! 29
施設を後にしたジミンは、もう一度振り向いた。

責任者の男が二度と来るなとばかりに睨んで立っている。


「まったく・・・何よっ!
たかが一人の職員に話しかけたくらいで追い出すなんて。」


皇后様が気になるとおっしゃるから、例の施設にしぶしぶ出かけた。
今話題の石鹸やパンを取材させてほしいと言うと
施設側は喜んで受け入れ、作業の撮影の許可も出た。
取材はあくまで口実なので、そそくさと済ませ
皇后様のおっしゃった彼女を探す。
いつも洗濯をしているという事だが、洗濯場には誰もいない。

ふと庭を見ると、草むしりをしている女性が居る。
ジミンが近づくと、その気配を感じて彼女が振り向いた。

一瞬でわかった。
この人が、皇后様がおっしゃった女性に違いないと。

どう表現したらいいのか。
どんな言葉が適切なのだろうか・・・

オーラ。
その女性から出ているビームは
ジミンに只者ではないと感じさせるに十分だった。

「あのう、ちょっとお話を伺ってもよろしいですか?」

その人は困った顔をした。
でも、ジミンはかまわず続ける。

「いつからここで働いていらっしゃるのですか?」

女性は黙っている。

「あなたはアルバイトなのですか?」

何も話さないが、彼女の目には強い意思が見える。

「ここでは話しにくいのなら、仕事が終わった後にでもお願いしたいです。」

急に彼女の顔色が変わった。
と同時に、ジミンの肩に強い力が加わった。

「あなた! 何をしているのですか?」

この施設の責任者が強い口調で言う。

「ただ、話をお伺いしているだけですが。」

「別の者が伺います。」

「私はこの方とお話をさせていただきたいのです。」

「それはなりません。
私が代わりにお聞きします。」

「なぜこの方とお話をしてはいけないのですか?
何か、特別な方なのですか?」

「あなたの取材は口実だったのですね。
すぐにお引き取り下さい。」

「ですが・・・」

男の強い力に引っ張られて、ジミンは門までずるずると連れて来られた。
そして、簡単に門の外へと追い出されてしまった。


頭に来た。
何か事情があるのだろうが、ここまですることはない。
そちらがそうくるなら、とことん調べてやる。

ジミンの記者魂がメラメラと燃えたぎった。


それから1週間。
ジミンはかけずり回って、ある事実につき当る。




胸騒ぎは案の定・・・
ややこしい、そう、とてもややこしい事に巻き込まれてしまった。
しかし、皇后様は何であんなに鼻が利くのか。

「はぁ~~。」

ため息をつく。
が、ジミンの目には炎が灯ったままだ。
彼女は急いで携帯電話を取り出した。

「ジノさん、すぐに会えますか?
2時間後に?
ありがとうございます、助かります。
私一人では判断に苦しむ案件でして。」

チェ・ジノに話せたら、少しは気持ちが落ち着くだろう。
ジミンはカツンカツンと小気味よい靴音を鳴らして歩き出した。




目の前のコーヒーは、すっかり冷めてしまった。

ジノから少し遅れるという連絡をもらってから、もう1時間。
忙しい人だから仕方がない。
何か特ダネでも掴んだのだろう。

彼はどんな小さなシグナルも見逃さない。
腕利きの新聞記者に昼夜はなく、今日も連絡が取れただけラッキーなのかも。

そろそろ、ここには居ずらい時間が過ぎた。
コーヒー一杯では申し訳ない気がしてくる。
ジミンは食べたくもないパンケーキを注文した。


それから遅れる事30分。
ジノが慌しくやってきた。

「待たせたな、悪かった。」

ジミンの前にある冷めたコーヒーをがぶ飲みして一息ついたジノ。

「で、何だって?」

言ったその先から携帯電話が鳴った。

「すまん、ちょっと話させてくれ。」


ジノはうん、うんと相槌を打ち 相手の話を聞いている。
そして冷たく言い放った。

「そんな内容なら、キルだ。」

キル。
ジミンも編集長によく言われる言葉。
記事には出来ないネタ。
ボツって言われた方がまだマシだ。

「ダメだ、やり直し!」

ジノは再び「キル!」と告げて電話を切った。


「何だよ、その顔は。
ジミンお嬢様もそんな顔をするのか?」

ジミンはムっとした。
出所してからというもの、死に物狂いで頑張った。
そして、やっとここまで来たというのに・・・
どんなに頑張ったって、目の前にいる男は認めてくれやしない。
自分の社の人達より、この人に認めてもらわなくては意味がないのだ。

「おっ、いい顔付きになってきたじゃないか。
ジミンはそうでなくちゃ、イジメ甲斐がない。」

「いい加減にして下さい。
大事なお話があるっていうのに。」

「ああ、そうだったな。 で、なんだ?
また、あのお方が何かやらかしたのか?
面白いスクープなら褒めてやるぞ。
まだ、よそに漏れてはいないよな?
ヤバそうな内容ならつぶせ、記事にはするな。」

「そんな事なら、まだマシです。」


ジミンは息を吸い込んで長く吐き出す。
一気に話してしまいたい。


ジミンの口から溢れだす言葉を、
ジノは腕を組んだまま黙って聞いていた。





進め! 28
     ぷくくく・・・

     おほほほ・・・

電話の向こうで、上品な笑い声が途絶えることは無い。

「そんなに笑われるような事をした覚えはないですけどっ!」

「粉だらけのお顔。
皇后様の威厳も何もありませんわね。」

チェギョンの剣幕にも動じない彼女は、ひとしきり笑った。



案の定、マスコミはこの一件に飛び付き
連日おもしろおかしく騒ぎ立てた。
だが、それは愛ある報道と捉えていいのではないだろうか。
久しぶりに戻ってきた、韓国のお姫様らしいご愛嬌。

しかも、報道のせいで施設が作る石鹸やパンが
飛ぶように売れていると言うのだから。
これにあやかろうと次々とオファーが来て、チェギョンは売れっ子だ。


「あなた様はこうでなくては。
久しぶりに楽しゅうございました。」

ジミンが言うと何でもイヤミっぽい。
チェギョンはその言葉を素直に受け取れなくて、頬を膨らませる。

「心からそう思っている?
そうじゃないでしょ、どうせ。」

「あらあら、どうなさいました?
いつもの強気はいずこへ?
ダメ出しはちゃんとしますわ。
今回は私の出番もなく、少し物足りないですけど。」

「ホントにそう思ってる?」

「ええ、ええ。
この調子でこれからも楽しませて下さいませ。」

「やっぱり怪しい・・・」

「変な方ですわね。
心から褒めて差し上げていますのに。」

「あなたって言葉使いは丁寧だけど
言ってる内容はずいぶん上からな気がする。」

「それは皇后さまの勘違いですわ。
私はあなた様を心から尊敬しております。
王族会の娘たちでは、とてもではないけど
こんなに楽しい皇后様になれなかったと。」

「・・・ジミン。
電話じゃなかったら取っ組み合いね。」

「そうですわね。
まだ勝負はついておりませんから。」

「今度武道場で一戦を交えますか?」

「私が宮に出入りできるとお思いで?」

「ダメ?かしら・・・
もう済んだ事なのに。」

「私とこうして話しているだけで大変な騒ぎになります。」

「そんなものかしらねぇ。」

「そんなものです。」

電話の向こうでジミンはしばらく黙った。
2人が会って話す事は絶対にできないのだとわかってはいる。
この前のように、表情がくるくる変わる皇后様を見てしまうと
実際に会って話してみたい衝動にかられてしまう。




「ところで、ジミン。 お願いがあるの。」

ジミンの思いも知らず、チェギョンは明るい声で言った。

チェギョンが切り出した一件にジミンは妙な胸騒ぎを覚える。
韓国の皇后様が気にするような案件とはとても思えず
何かまた妙な事に首を突っ込みそうな嫌な予感・・・



定期的に訪問している視聴覚障害者施設の事で
皇后様はそこにいる一人の職員を調べて欲しいと言う。
公務を減らした関係で、半年に一回のペースで訪れていた施設に
今年は一回しか行けそうにない。
そこでいつも洗濯ばかりしている女性職員がいる。
彼女が何年経っても、洗濯しかさせてもらえないのはなぜなのか・・・
それを調べてほしいと言うのだ。

「そんな事、聞くまでもございませんわ。
なぜなら、彼女はきっとアルバイトで 
正職員のような仕事はできないのです。
そんな事はいくらでもある事例です。」

ジミンは笑って答えた。

「それならそれでいい。
彼女が望んだ仕事ならいい。
でも、彼女はいつも子供達を見て微笑んでいる。
とても母性の強い人だと思うの。
子供と接する仕事をしたがっているように思えてならないの。」

食い下がるチェギョンに根負けした形で、ジミンは言った。

「皇后さまがそこまで気になられるのなら、仕方がありません。
お調べしましょう。」



全く何がそんなに気になると言うのか・・・
たかが一職員のために、忙しい時間を割いて、この私が。
ジミンは少し腹立たしくもあった。
それはチェギョンを心底心配しているからだと気が付いている自分にも。

天真爛漫、能天気、無邪気・・・
これらの言葉は時として、人をムカつかせる事もある。
大っきらいだった。
真ん丸の目でじっと見つめる無邪気な表情。
そしてその横で妻が可愛くてたまらないという顔をする男も。

    皇太弟夫婦なんて、大っきらいだったのに~!
    なんで、使いっぱしりになってるの?私。


じゃら・・・

高価なブレスレッドをチラ見せしながら、ジミンはタクシーを止めた。




         皆さま、こんにちは。
        やってしもうた~!! 下書きのままでした。
        朝早く来て下さった方、ごめんなさいね。
        8:25アップしまーす。
        いつもありがとーーー♪

                        Luna