宮2を夢見て~シンとチェギョンの物語~
韓国ドラマ「宮」に魅せられて未だ「宮2」をあきらめられず、あれこれ妄想しています。
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進め!34
ジノはどんどん歩いて行く。

「隠れ家に案内するよ。
そこならオテンバさんと何を話しても大丈夫だ。」

ジミンはかかとの高いハイヒールを鳴らしながら
必死でジノについていく。

メインストリートから外れた路地をうねうねと進む。
外壁が剥がれた雑居ビルの3Fに会社名もない小さな部屋。

ガチャ、ガチャ。

立てつけの悪そうなドアを強く押して、ジノは入れと顎を杓った。


「何ですかー!、これ!!」

パソコンが数台に、隅の方には明らかに盗聴装置と思われる機材。
壁につけられたテレビの映像は、どこかの監視カメラを映し出している。

「・・・ハッキング?」

ジミンはつぶやいた。

「人聞きの悪い事を言うな。 情報の共有だ。」

いやいや、世間ではそれをハッキングと言うのです。

「ま、会社とは別の筋で情報を得るのもジャーナリストの基本なんだな。」

いやいや、そんな事をしているのはあなたくらいのものでしょう。


「あと、30分か。
ジミン、一応対策は立てよう。
あのお方に通用するかどうかは別にして、
あらゆるパターンを想定してみようじゃないか。」

「ええ。 難題ですわ。」

と、その時 ジミンの携帯電話が震えた。

「あっ、皇后様からだわ。」

「とにかく出ろ。」

「はい。」とジミンは携帯電話を耳にあてる。


「今、そちらは大丈夫~? 割と早く終わったの。」

電話からのんきな声がする。

「えっ、はい。 大丈夫です。」

「10分くらいなら話せるよ。」

「はい、少しお待ち下さい。」

ジミンは声を出さずに(どうしましょう?)とジノに聞いた。

「仕方がない、当たって砕けろだ。」

ジノの声が遠くに聞こえたのだろう。

「誰か、傍にいるの?」

チェギョンの声が少し警戒しているようだ。

ジミンは覚悟を決めて、携帯電話をスピーカーモードにして机の上に置いた。


「お久しぶりです、皇后様。 チェ・ジノです。」

「あらー、ジノさん。
いつもお世話になっております。
あなたの新聞には色々助けてもらっているの、ありがとう。
でもね、この前の記事はちょっとひどくない?
陛下は確かに私にメロメロですけど
公務に遅れたのは私のせいじゃないわよ。
あの日は朝から陛下の調子が悪かったの。
男の人って腸が弱いでしょ、だから・・・お察し下さい。
あ、これを書いたらぶっ殺すわよっ。」

相変わらず楽しいお姫様だ。
ジノは今から話させねばならない事を思うと、胸が痛む。

「ん? ジノさん?」

「久しぶりに皇后様の元気なお声が聞けまして
感動で声も出ませんでした。」

「まあ、お上手です事。
ジミンとジノさんが一緒に居ると言う事は、
例の件をジノさんも調べてくれてたのかしら?」

「ええ、そのとおりです。
・・・なかなか大変な案件ですよ。」

「時間がかかっているから、そんな気がしてました。
私に構わず、本当の事を話して下さい。」

「そうですね、では。」

さっきからジミンがずっとうつむいているので
ジノは自分の口から伝えようと覚悟を決めた。





全てを話し終えると、ジノは深いため息をついた。
電話の向こうの静寂が気にかかる。

     皇后様はもしかしたら泣いていらっしゃる?

ユニの両親の事は、何も触れなかった。
確証のある事実だけを話したつもりだ。
だが、皇后様は察しておられる事だろう。

沈黙が怖い。
だからジノはまた話し出そうとした、その時。

「こんな事とは思わなかったけど・・・
少しも思ってはいなかったけど、ユニさんがとても気になった。
全身で何かに耐えているような姿と
子供達を見守る慈悲深いまなざし。
それは母親のものとも違うし、子供好きな人のでもなく・・・
彼女は生まれついての小児外科医なのよ、きっと。」

チェギョンがふり絞るような声で言った。

「そうでしょうね、北朝鮮は彼女を手放したくはなかったはずです。」

ジノの言葉に、電話の向こうから相槌が聞こえてくる。

「でも、我々には何もできない。
両国が関わっている彼女には、指一本も触れられないのです。」

「そうかしら?」

チェギョンの声にジミンが驚く。
そして、ジノを見て首をブンブンとふった。

    わかってる。

ジノはジミンにうなづいた。

「皇后様、あなた様は絶対に何があっても関わってはなりません。
事が公になれば、国際問題にまで発展する問題です。
皇室はあくまでも国の象徴であり、国政とは関わりないものなのです。
例えユニさん個人の事でも、皇后様が関わりを持ってしまえば
国単位での案件になってしまう。
この件はそれほど多くの問題を抱えているのです。
ですから、ここはどうか」

「それくらい、わかっていますよ。」

ジノの言葉を遮って、チェギョンは言った。

「もう、女子高校生じゃあるまいし。
私だって、皇后としての自覚はあります。
悔しいけれど、私の立場では何もできないって事は理解しています。」

ジミンはほっとして、椅子に座り込んだ。

が、ジノは嫌な予感。

「関わるのは、あなた達です。」

チェギョンの元気な声が、小さな部屋にこだました。






進め!33
酔いつぶれた友人に毛布をかぶせながら
チェ・ジノは考えを巡らせる。

どんな話が飛び込んでこようとも、
ジミンには全てを話そうと思っていた。
彼女は記者だ、冷静に受け止めるだろう。
問題は皇后様だ。

   女は女同士。
   ジミンに任せるか・・・

彼女の意見を聞いてから、また考えよう。

ジノは友人の横で眠りについた。




真昼間の公園は、のんびりと散歩をする人もまばらだ。
ジノは敢えてここを選んだ。
喫茶店という場所は、意外と人の話に聞き耳を立てている人間がいる。
今からする話は、絶対に聞かれたくない話だ。

噴水近くのベンチに座ってジミンを待つ。
全て話す決心が揺らがぬうちに、早く来い。
ほんの2、3分がジノにはとても長く感じられた。




ジミンの顔がだんだん青ざめていくのがわかった。
持ち前の負けん気を全面に出して
毎日奔走している駆け出しの記者。
時折ジノがびっくりするような記事を書く。
刑務所で猛勉強をし、山ほど本を読んだジミン。
着飾ってパーティー三昧していた頃の彼女ではない。

だが、ショックを隠せないジミンを目の当たりにしてしまうと
もう少し言葉を選んで話せばよかったと思う。
それほど彼女は動揺していた。

「ユニさんのご両親は粛清されたのでしょうか?」

ジミンの声が震える。

「・・・おそらくな。」

ジミンは息を飲む。
両目がユラユラと揺れて、そこから涙が零れ落ちそうになるのを
やっと堪える。

粛清。
今更ながら、ジノも言葉にするとキツイと思った。

「私の両親はあの時に離婚しました。
父は愛人の元へいき、母は実家で相変わらず贅沢三昧に暮らしています。
両親とも、今の私には必要ない人達ですが
病気だと聞けば会いに行き、必死で看病すると思います。
亡くなったりしたら 涙が枯れるほど泣くでしょう。
ユニさんは・・・生死もわからないご両親のために
泣く事すらできない。」

ジミンはそう言って目を伏せた。

「・・・そうだな。
自分だけ北朝鮮に戻らない選択をした時に
ユニはそこまでの覚悟をしていたはずだと思う。
それでも、彼女は北を出る道を選んだ。
戻るより苦しい道だと知りながら・・・」

ジノは冷めてしまった缶コーヒーを一気に飲んだ。


しばらく黙りこんでいたジミンがぽつりと言った。

「何でもいいから、ユニさんの力になりたい。」

「韓国の公安と北朝鮮の工作員が絡む人物だぞ。
今の情勢では、彼女に近づくだけでも危険だ。
俺達に何が言える? 何ができる?
新米記者がうぬぼれるんじゃない!」

ジミンの瞳に決意を感じて、ジノは慌てて言った。

「ずっと思っていたのです。
北から逃れてきた人達が、南に絶望して故郷に戻りたがる現実。
能力がありながらそれを生かせず、差別と貧困に苦しんでいる。
同一民族だと認識しながら、彼らを受け入れられない南。
韓国の若者達が大学を卒業しても就職できない現状や深刻な経済危機。
経済崩壊の危惧の中、自国の事で精一杯と理解はしています。
新米記者ですが、そこのところは一般の人達よりは分かっているつもりです。
でもこの国は、危険を冒してまで逃げ延びてきた人達が
安心して幸せに暮らす事ができない場所なのかと、常に思ってきました。
ユニさんに出会い、その思いがますます強くなっているのを感じます。」

その思いはジノだって一緒だ。
いや、もっと前から抱いてきた事だ。

    だけど、ジミンを巻き込みたくない。

「この話はここまでだ。
さあ、あのオテンバさんにどう伝えるか。
俺達が今考えなくてはいけないのは、そこだ。」

これ以上食い下がっても、簡単に解決する問題ではない。
ジミンは気持ちを切り替えて、難題に取りかかろうとした。


    皇后様の嗅覚は侮れない。
    いつもぼんやりしているけれど、いざという時猟犬になる。

    ヘタな誤魔化しでややこしい事になると、収拾がつかなくなる。
    宮で騒がれたらおしまいだ。



ジミンに渡した缶コーヒーが、スカートを滑ってコロコロと落ちる。

ジノは腕を組み、ジミンは目を伏せたままだ。


「そのまま話そう。」
「ありのままをお伝えしましょう。」

考え抜いた言葉を2人同時に吐いた。

「あの方はどう出ると思う?」

「さあ・・・
想像がつくようで、つかないですわ。
思考回路が普通じゃないお方ですから。」

「だな。」

「まずはメールで通話可能な時間をお聞きします。」

ジミンはあっという間に打って送信する。



『あと一時間くらいしたらいいわよ~。
もうすぐ退屈なお茶会が終わるから。』

のんびりした返信に、ジミンは苦笑する。

数年前まで自分がいた空間なのに
今はもう遠い過去の夢物語の世界。
もう、戻れない。
いや、もう戻りたくも無い。


    お姫様、よくやっていらっしゃるわ。
    本当に・・・よくやってる。


ジノが勢いよく立ち上がったから、ジミンも慌てて続いた。

「お姫様とゆっくり話ができるところへ行こう。
俺も聞いてみたい事がある。」

ジノはそう言ってスタスタと歩き出した。






         皆さまへ。

       お久しぶりです。
       ご訪問をありがとうございます♪
       &なかなか更新できなくてすみません。

       今年に入ってから今まで以上に忙しい日々が続き
       最近はこの部屋の存続を考える状態になっております。
       妄想が尽きた訳ではないのですが、とにかく時間がないのです。
       この章の冒頭部分に辿り着けないかもしれませんが
       その時はごめんなさいね。

       いきなりお部屋を消したりする事は絶対にしませんので。
       それだけはお約束いたします。

       GWも過ぎ、今日からまた日常が始まります。
       ゆっくり骨休みができたとは言い難い私ですが
       老体にムチ打って、また頑張りまーす!

       皆さまもお身体に気をつけて、毎日を大切に過ごして下さいね。
       泣いても笑っても、それは一日。
       勿体ないから、どうせなら笑って過ごそう。
       そんな事を思う、今日この頃です。

       では次回はチェギョン姫と共にお会いしましょう。
       あんにょん♪


                    Luna







進め! 32
チェ・ジノの友人は、中国商社と取引のある会社を経営している。
小規模な会社ではあるが、安定した利益を上げ
大きな問題さえなければ、このまま息子の代まで大丈夫そうだ。

というのも、彼は中国語が堪能な上に中国には知り合いも多く
通訳などを介さずに直接話ができるという利点があったからだ。

そんな知り合いの中に、脱北者専門のブローカーも含まれていた。
ジノが記者という事もあり、友人は会えば興味深い話を聞かせてくれる。
なので、今回もソ・ユニの事を「ひとつ、頼むわ。」と軽い感じで調べてもらった。

しばらくして連絡をくれた友人といつものバーで落ち合う。

友人は大して面白くも無い仕事の話ばかりして
肝心のユニの件については忘れたかのようだ。

「頼んだ件だが、よくわからなかったのか?」

ジノは気楽に聞いた。
友人は首を何度も横に振る。

「いや、そうじゃない。
こんなバーで話すような内容じゃないんだ。
お前んちで飲み直そう。」

「・・・ああ。」

嫌な予感がした。
訳ありだとは思っていたが、彼の様子からするとあまりいい話ではなさそうだ。


タクシーの中でもだんまりを決め込む友人に
ジノは話しかけるのを辞めた。



「ビールでいいか?」

「ああ。」

冷蔵庫からビールとキムチを取り出し、汚いテーブルに置く。

シュッポ。

友人はビールをごくごくと音を立てて飲んだ。

「どこからのリークだ?」

「ん? 何が?」

「とぼけないでくれ。 真面目に聞いてる。」

友人の真剣な目を見てジノはびっくりした。

「そんなにヤバイのか?」

「ああ、ソ・ユニは公安の監視下にある。」

「・・・やっぱりな。」

「そう思ってたのか?
お前も人が悪いな。
わかってて調べさせるなんて。」

「いや、確信があった訳じゃない。
ユニが医師として優れた人材にもかかわらず、
ひっそりと隠れるように暮らしている様子から感じただけだ。」

「だからー、どうしてそれを知ったんだ?」

いくら友人でも、皇后様との関連を知られてはならない。
第一、ジノと宮の関係はジミンしか知らない事だ。
ジノは必死で言い訳を考える。

「うちの記者が施設の取材をした時に、ソ・ユニの存在を知った。
隠し通せない存在感が記者魂を揺さぶったというのか・・・
まっ、そんなところだ。」

「この件からはすぐに手を引いた方がいい。
今の情勢から考えると、深入りしない方が賢明だ。」

「・・・そうか。」

とは言ったものの、ジノの心はかなり深入りしてしまっている。


「記事にしないと約束するなら話す。
が、そうでない場合は一切口を開かないからな。」

そうこられると、ジノは言わざるを得ない。

「記事にはしない。
だけど、すごく興味があるから話してくれないか?」

「絶対だな?」

尚も念を押す友人にジノはうんうんとうなづく。
友人はギロリとジノを睨むと話始めた。



ソ・ユニの一家は、代々医者の家系だった。
ユニの父親は北朝鮮で最高峰の病院に勤務するようになり
ユニ達の代になると、より優秀な人材を輩出していた。
ユニには2人の兄がいる。
一番上の兄は実際の診療より、治験などを行う研究室に身を置いていた。
二番目の兄は脳外科の新鋭として名前を馳せ、
最初は父親と一緒の病院勤務だった。
2人ともだったというのは、今は違うという事だ。

北朝鮮ではそれぞれの分野で優秀な人材が、
政府の関連施設に集められる。
様々なエキスパート達は国の中枢に置かれるのだ。
ユニの兄達も優れた才能と腕がゆえに、一般の人達を救うのではなく
政府関係者のための医師として存在する事を強いられたのだ。
そして一度そこに身を置いた者達は、二度と一般の場所には戻れない。
内部を知り過ぎてしまうからだ。

彼らが今そこでどんな生活をしているのか、知るすべは無い。
たとえ家族であったとしても、知ることはできない。

そこまで話を聞いて、ジノはその先が読めてきた。

「ユニもそこへ行かされる事になっていたのか?」

「そのようだ。」

友人はうなづく。

「だから父親は危険を冒してまで、ユニを脱北させたんだな。
じゃあ、父親や家族は?」

「2人の兄達は何とか無事だろうが、両親はどうだろうな・・・
中国側も関わりたくないから調べもしない。
東南アジアを渡り歩く間もユニは何度も危ない目に合ってきたようだ。
北朝鮮の工作員は各国にいるからな。
父親が持たせた多額の金と自らの叡智で切り抜け
何とか韓国に辿り着き、保護を求めた。
韓国側も厄介な人物が現れた訳で、処置に困ったのだろう。
とにかくひっそりと暮らせというしかなかった。」

「そんな事はすぐにバレているはずだ。」

「だから、民間ではなく公営のあの施設に置いたんだ。
工作員がユニに接近しにくいように。
韓国政府の監視下にあるユニに、ヘタに手を出したら大ごとになる。
あの施設の周りには時々工作員が出没しているようだけど
今のところ目立った動きはない。」

「そこまで調べてくれたのか。」

「乗りかかった船だ、調べたさ。
だが、俺はもうここで降りる。
お前も一緒に降りるんだぞ。」

友人はジノにビールのコップを持たせ、チンと乾杯させる。

その味は、今まで飲んだどのビールよりも苦くて不味かった。






進め! 31
「ふうん・・・まだわからないのね。」

「ええ、そうですの。
一般人を調べるのって大変なのですよ。
この頃は個人情報の管理が厳しいので。」

チェギョンの催促電話に、つい出てしまったジミン。
大した言い訳も考えていなかったし、動揺を隠すのに精一杯だ。

「ジミンは記者さんなのでしょ?
そんなの朝飯前かと思ってたわ。
宮の情報システム部の誰かに調べさせようかしら。」

ジミンはギクッとした。
そんな事をして、宮が関わったという痕跡を残すのは無謀だ。

      どうしよう・・・

ジミンは焦る。
その時、ふと名案を思いついた。

「皇后様、この件に関してはしばらく関わらない方かよろしいかと。」

「どーして?」

チェギョンののんきな声に、ジミンは少し腹が立つ。

「施設の責任者が何だか怪しいのです。
私が彼女に近づくと必死で阻止しようとするし、
もしかしたら彼女は裏帳簿でも任されているのでないかと。」

「えっー、それは大変な事じゃない!」

「なので、今私が必死で調べておりますから
宮は動かないでいて下さい。
ややこしい案件かもしれませんから。」

「そうね、その方がいいわね。
でも、あの責任者さんはいい人なんだけどな~。
それに彼女はそんな事に手を染めるような人じゃないわ。
とっても慈愛に満ちた目をしているもの。」

「なかなかの切れ者とお見受けしました。」

「やっぱりそう思う?
見るからに賢そうだし、子供が大好きな人よ、きっと。」

     本当にこの人は鼻が利く。
     前世は警察犬だったんじゃなかろうか。

ジミンは少々呆れた。
公務に行って、何を見て何を拾ってくるのか。
この人と一緒に暮らしているシンに対して
素直に尊敬の念を抱いたジミンだった。

「じゃあ、しっかり調べて報告してね。」

「はい、わかりました。」

電話を切ってから、ジミンはゴチる。

     私だって他にもいっぱい仕事があるのよっ!
     全く、何だって言うの!!

     まあ、しかし・・・
     あの単細胞さんが素直に信じてくれてよかった。
     危ないところだったわ、宮の誰かが動いたらマズイもの。
     これは宮が絶対に関わってはいけない案件。
     ああ、この先が思いやられるわ。

どっと疲れたけれど、自分の本来の仕事が待っている。
ハイヒールに上手く体重を乗せて、ジミンは歩き出した。




友人との長い電話を終えて、チェ・ジノは煙草に火をつけた。
禁煙してからも、大変な案件を抱えるとやはり手が伸びる。
だから皆には今も喫煙者だと認識されていた。

紫の煙は細長く空間を漂い、消えていく。
ジノはしばらく何も考えず、煙の行方を追った。

最後の煙を吸い込んで、天井に向けて吐く。

     さて、どうしたものか。

今の世界情勢を考えたら、このまま蓋をして何もなかった事にすべきだ。
記者じゃなくても、子供だってわかる事だ。

だけど・・・記事にしたい。
それは記者の本能だから仕方がない。

     それより先に、皇后様に何て話す?

ジノはそれに気が付いて、頭を抱えた。



ソ・ユニと父親は、北朝鮮から中国に派遣された医師であるのは
ジミンが調べた通りだった。
ジノの友人に尚も詳しく調べてもらうと、
手術が必要だったのは北朝鮮大使館の関係者だったらしい。
胸部外科の権威である父と共に、小児外科医であるユニが同行したのは
ただ腕がいいからか、それとも患者が子供だったかはわからない。

術後の経過を見届けて、父娘が北朝鮮に戻る時
父親から「娘をこのまま中国に置いてもらえないか」という打診があったようだ。
だが、中国側としたら 北朝鮮への配慮もある。
彼らは一般人とは違う。
北朝鮮が派遣してきた医師なのだ。
二つ返事で許可するわけにはいかない。

尚も執拗に頼みこむ父親は、患者の容体が思わしくないという虚偽の報告をして
帰国を数日引き延ばした。
正式なルートでは無理だと悟った父親は、
ブローカーに多額のお金を掴ませ娘を託す。
そしてソ・ユニは東南アジア数国を経て、韓国に辿り着いたというわけだった。

父親は一人で北朝鮮に戻って行った。
その後、彼がどうしているかはわからない。
中国側も気まずい思いをしているから、触れずにいるようだ。

父親が命がけで逃がした娘、ユニ。
彼女が韓国で医師の資格を取らない理由。
続けて、友人が語った話にジノは身震いをした。






進め! 30
聡明さは、必ずしも幸せをもたらすとは限らない。

皇后様のそのするどい嗅覚が嗅ぎあてた女性。

彼女の名前は、ソ・ユニ。
優秀な小児外科医だった。
手術が困難だとされる数々の症例を
細い腕一本で治し、医療の歴史を塗り替えてきた。
が、世界のどこを探しても その素晴らしい症例の記録は見当たらない。

彼女が塗り替えてきた歴史は、ごく小さな国に留まっていたからだ。


ジミンが話す言葉を、聞き漏らすまいと
ジノは目を閉じたままじっと聞き入った。


ソ・ユニは脱北者だった。

北朝鮮では有名な小児外科医であった彼女は
ある日、胸部外科の権威である父と共に中国入りをしている。
おそらく、中国側からの要請で 北朝鮮は優秀な外科医を派遣したと思われる。
そして中国での医療行為が完了した後、
父親は北朝鮮に戻り、なぜか彼女のみ韓国に渡った。

その辺りの事情は、取材ではわからずじまいだったようだ。


脱北者は韓国に入るとまず、HANAWONという場所で社会適応教育を受ける。
元医師であっても韓国では認められず、すぐに医療行為は行えない。
再び医師として働きたい場合は、韓国の国家試験に通らねばならない。
彼女は北朝鮮の最高峰の医療技術を備えているのだから
勉強をして受験をすれば、おそらく簡単に合格するだろう。

だが、彼女は一切そういう行動を起こしていない。

脱北者達の就職事情は、はっきり言ってよくなかった。
差別や偏見から、正規の仕事にはなかなか就けない状況だ。

軍事境界線を命がけで逃げて来る人は、実際そんなに多くはなく
8割は中国経由でタイやモンゴル、ベトナムを経て韓国に入国する。
支援団体やブローカーの手助けによって脱北を図る者たちは
北朝鮮では中級以上の生活をしてきた人達だ。
こつこつと貯めたお金をはたいて、夢と希望に溢れ脱北する。
充分な教育を受け、資格を身に付けた人も多い中、
それが生かせず、せっかくやって来た韓国で貧困生活を送る羽目になる。

南北統一、同一民族といった言葉の裏に存在する現実。
韓国の闇の部分だ。

ソ・ユニは自分のスキルを人一倍生かせる状況にありながら
なぜそうしないのか?
ジノは真っ先にそこに疑問を感じた。
そして、北朝鮮に戻った父と韓国に亡命した娘。
そこに強い違和感が残る。


「ジミン。
この案件はこの先、俺が受け持つ。
君はもう関わるな。」

「せっかくここまで調べたのです。
もう少し詳しく知りたいです。」

それは当然の欲求だ。
だが、ジノは直観で危険を感じとる。

「たった1週間でこれだけの事をよく調べ上げたな。」

ジノに褒められたジミンは少しはにかんだ。

「だが、もうこれ以上彼女の周りをやたら嗅ぎまわるのはよくない。
何か裏がありそうな気がするんだ。
ましてや、この案件の発端は皇后様からの指示だ。
慎重に調べた方がいい。
中国に太いパイプを持つ友人がいる。
彼に詳細を調べてもらうから、しばらくは動くな。いいな?」

「・・・はい。
皇后様にはどのように報告すればいいのですか?」

「詳細が分かるまでは、何も伝えない方がいい。
下手すると、ソ・ユニさんと接触を持とうとするかもしれん。」

「有り得ますわね、あのお方なら。
陛下もご苦労なさいますわ。」

「ああ、もし連絡があっても まだ調べている最中だと誤魔化すんだ。」

「わかりました、そうします。」


喫茶店のテレビは、ちょうど皇帝陛下の公務を映し出している。

いつものように爽やかな笑顔で、品よく手をふる姿。


「ああ、のんきに手を振って・・・
また、お姫様が暴走しそうだってのに。」

ジノは画面を見ながらつぶやく。

「でも、何で私達がこんなに苦労しているんですの?
なんか、変。」

「いいか、ジミン。 忘れるな。
俺達は彼らに申し訳ない事をした。
だから、その償いをしなくてはいけない。
どんな小さな綻びも見つけて、宮を守るんだ。
彼らがああやって皆に幸せを届けられるように。」

ジノはテレビのシンに視線を移して言った。

「わかってますわ。
でもあのじゃじゃ馬さん、結構失礼なんですのよ。」

「ははは・・・
元気になって下さって、何よりじゃないか。
君が一番心配してたくせに。」

「そうでもないですわ。
しばらく静かで平和でしたもの。」

「ふふん、そういう事にしておくか。」


シンをぼんやり眺めている小生意気なジミンの横顔。

     やっとフッ切れたな。

ジノはその様子を微笑んで見ていた。